ルンピニースタジアムの歴史と未来

ルンピニースタジアムの歴史と未来

[二大殿堂スタジアム]
ルムピニースタジアム(“ルンピニー”との記載が多いが、タイ語からの正確な訳ではルムピニー。)
1956年12月8日の設立以降、10年ほど先に設立されたラジャダムヌンスタジアムと並んで、ムエタイの二大殿堂スタジアムと称されています。
スタジアム管理は、タイ国陸軍福祉局管轄となっており、福祉局局長がルムピニースタジアムの支配人を兼任します。

ラマ4世通り沿いに設立されたスタジアムが歴史を刻んできましたが、設立から57年経過した2014年2月7日の興行を最後に、大型再開発プロジェクトの為に土地を返還(同地は王室財産管理局所有地)し、現在は郊外のラームイントラー通りの陸軍施設内に新たなスタジアムを建設して移転しています。
(ラマ4世通りのスタジアム跡地はONE BANGKOKという超高層ビル、ホテル、ショッピングモールなどの巨大ランドマークとして建設中)

www.onebangkok.com


コロナ禍前のルムピニースタジアム(ビッグマッチ興行時)

(現在のルムピニースタジアム外観 / ラームイントラ通り)

ラマ4世通り時代のルムピニースタジアムは、トタン屋根に天井から吊るされた送風機が回る独特の雰囲気と激しい試合で、バンコクの都心部という立地的な利便性も相まって、開催時の火・金・土曜日は外国人観光客とギャンブル目的の観客で超満員の人気を博していました。

(ラマ4世通りにあった旧ルムピニースタジアム)

設立当初は半分ほどしか屋根がなく、一部の観客席は屋外となっていました。エアコンもなく増設や補修を繰り返すことによってできた独自のレトロな闘技場の雰囲気は、外国人ファンだけでなく、当時から知るムエタイ専門誌の記者たちからも、いまだに懐かしむ声が聞かれるほど。

(設立当時の旧ルムピニースタジアムの様子。
半屋外になっていた。)

タイの経済成長の中、最新のビルやコンドミニアム、高速道路、地下鉄、鉄道網などが次々と整備されていく流れで、古いものは取り壊されていき、タイ独特の建造物は少なくなってしまったのは時代の流れとしても、古き良きものは保存してもらいたいというのは外国人目線からのエゴなのでしょうか…
バンコクの玄関口と言われたバンコク中央鉄道駅ホアランポーン駅は、当初その役目を終えて取り壊される話がありましたが、タイ国民から遺して欲しいとの声が多く、そのまま残すことが決まったこともあり、ルムピニースタジアムもなんとか残して欲しかったとの想いが個人的に強い。
タイの街並の雰囲気を作ってきた屋台街やトゥクトゥクなども様々な規制から徐々に少なくなってきており、近代化されていくタイを逞しく思う反面、”タイらしい”ものが消えていく寂しさを感じてしまいます。

(この闘技場独特のなんとも言えない雰囲気が、魅力のひとつでもあった旧ルムピニースタジアム)

[苦境をさらに追い込む事案]
2014年の移転以降、立地的にバンコク郊外であること、公共機関でのアクセスが不便な部分からも集客数で苦戦が続いていた(※現在はBTSワットプラシリーマハタート駅が最寄駅で開通)ルムピニースタジアムですが、それでもビッグマッチ時には超満員、興行収益300万バーツ超えと、根強いムエタイ人気を証明する興行もありました。が、2020年3月、ルムピニースタジアムに決定的なダメージを与える事案が発生してしまいます。

同年2月から感染拡大が懸念されていた新型コロナ(Covid-19)のクラスターが、よりによってルムピニースタジアムの観客席から発生してしまいました。
当日、ビッグマッチ興行で有名俳優がMCを務めており、その俳優もコロナ感染して大きく報道されてしまったことから、
ルムピニースタジアム=コロナ感染拡大のイメージが、タイ国民にインプットされてしまいました。

[コロナ禍からの大変革を実行]
当然のようにスタジアムは閉鎖。各地でのムエタイ興行も開催禁止となり、ルムピニーに限らずムエタイ界、タイ全体も他国と同様にコロナ禍に見舞われ苦境に立ちます。

厳しい規制等で感染防止に躍起になった結果、徐々に感染拡大も弱まり、同スタジアムも2021年9月15日から興行再開となりました。室内ではなく同敷地内の駐車場棟での開催スタートでしたが、その再スタートに向けて陸軍幹部は一大変革を打ち出しました。

■女子ムエタイ試合の解禁

(設立から女子ムエタイ選手の試合が組まれどころか、大相撲同様に女性がリングに触れることも禁じられていました。)

■ギャンブルの廃止

(ムエタイ=ギャンブルと言われるほど密接したものであり、2-3階の観客席のほとんどが賭け目当ての入場者です。)

■総合格闘技(MMA)の試合を開催

(1月16日に第一弾をスタート)

ルムピニーを知る関係者やファンからすると、まさに大変革です。時代の流れを大胆に取り入れた思い切った変革ですが、英断となるのか、もしくは愚断となってしまうのか…⁉︎ 数年後に判断されることでしょう。

[純粋な格闘競技としての原点回帰]

ムエタイ=タイの国技ですので、国技としての威厳を云々…と常に言われるのは、伝統文化ゆえの使命でしょう。

今までは賭け故にトラブルが付きもので、移転してから既にギャンブル絡みで2件の射殺事件が発生してしまっています。(いずれもスタジアム脇での事件)

ルムピニーでのギャンブルが廃止されることにより、今まで大きな問題となっていた試合での各トラブル(八百長や判定結果に不服な観客からのトラブル等)が回避される利点があるのと、あくまでも純粋に勝敗を競うスポーツ競技としての運営が可能となる部分があります。レフェリー買収問題、賭け率に左右される判定などの諸問題が一気に解決できます。

しかしながら、観客動員の源がギャンブルであったため、今後2-3階の観客席がタイ人観客で埋まることは考えにくく、観客はリングサイド席の外国人観光客のみとなる可能性が高い…

そうなると、入場チケット収入が見込めないプロモーター(興行主)は、思い切ったマッチメイク(トップ選手の起用)が出来なくなり、悪循環になる可能性があります。悪くいえばプロモーター=賭博場の開帳主ともいえるので、もう一つのラジャダムヌンスタジアムに主戦場が移っていくことも懸念されます。

ライブ中継などが入り、スポンサー広告収入などは見込めるものの、外国人入場者からの収入で運営継続が可能かどうか?より新たな戦略も必要となるでしょう。

果たして、大英断をしたスタジアム運営幹部たちはピンチをチャンスに変え、ギャンブルのない”国技”ムエタイ競技としての興行を確立し、殿堂スタジアムしての威厳を発揮できるのか、先行きを注視しながら期待したいと思います。

 

↓旧ルムピニースタジアムの場内の雰囲気の映像

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◻︎サガッペット・イングラムジムVSゴーンピポップ・ペットインディー

 

©INGRAM MUAYTHAI GYM

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