日本は6月19日に東京ドームにて開催されるTHE MATCHが大きな話題になっているようですね。
頂上対決の那須川天心vs武尊が注目されていますが、試合まであと3週間という時期にフジテレビでの地上波放送の中止が発表されるといったニュースにより、ファンや関係者の間で様々な憶測が囁かれ、取り沙汰されています。
THE MATCHの実行委員で、中心となって夢のカードを実現させたRIZIN代表の榊原信行氏の反社との関係性を週刊ポスト誌で報道されたことが主な原因ではないかとされています。
今のご時世では、各テレビ局はコンプライアンス遵守と対策にと非常にナーバスな状況です。地上波の民放ともなれば、より厳格にチェックされていくでしょう。今の時代、少しでも反社との関係がチラついたり、お金の流れがあると判明した時点で完全にアウトになってしまいます。
榊原氏は、以前からムエタイに対する失言があったり、一時的な感情で選手に対して配慮のない発言をしたりで、その度に謝罪を繰り返していた人物という印象でした。
格闘技界は癖のある人間の集まりですので、ボス的な存在感のある人間がまとめていかないと難しい面もあるかとは思いますが、今はひと昔と違い、バックの威光や恫喝でやっていくのは、既に通用しない時代になってきているでしょう。
それはタイ国も同じことで、かつてはムエタイ=マフィアというイメージを持たれていたことも事実です。正式に認められた(公式スタジアムのみ)ものではありますが、やはりギャンブルが絡んでいることから八百長問題や判定結果をめぐる各トラブルや、ムエタイジムのシステム上、厳しい上下関係、オーナーの言うことは絶対だというパワーハラスメントが横行していて特殊な世界ではありましたが、一昔前のようなやり方は今では通用しなくなってきているのが現状です。
昨今ではムエタイも世界中から認知されており、タイ国への経済効果も大きいことから政府機関もムエタイを全面に押し出したキャンペーンを実施したりでイメージアップが図られてきました。
現在はそのような状況ではありますが、かつて30年ちょっと前のタイでは、
“チャオポー ナコンバーン”(大都市[首都圏]のゴッドファザー)との異名を持っていたムエタイ・ボクシング界のボスがいました。
クレオ・タニクン(1934年4月10日〜1991年4月5日/56歳没)
言わずと知れたタイのムエタイ・ボクシング界で大きな影響力を持つ大物マフィアとして業界をまとめていました。
サーマート・パヤックアルン(右)、ディーゼルノーイ・チョー.ラッタナスカン(左)と写真に収まるクレオ氏。
☝専門誌の表紙を飾るなど、その威光は日々増していました。©️MUAYSIAM
自身もスクムビット93の奥にムエタイジム(ソー.タニクンジム)を所有していましたが、対戦が熱望されながらも別プロモーションのために実現が難しかったマッチメイクなどの調整役、仲介に入り、夢の対戦を実現させるなどで業界の活性化に貢献していました。
☝︎現在のソー.タニクンジムの外観。管理人のみ住んでいるようですが、生活感はなくひっそりとしていました。
確か1990年頃に全日本キックボクシング連盟主催の日本武道館大会に来日していたかと記憶しています。リング上にて紹介されているクレオ氏を見た記憶があります。
公職的にもタイ国アマチュアボクシング協会、タイ国プロムエタイ協会の総裁を務めるなど、内外に向けて影響力を発揮していましたが、1991年4月5日、ナコンパトム県の路上にて武装した集団による銃撃で、57歳となる自身の誕生日のわずか5日前に命を落としました。(犯行グループは未だに特定されておらず、未解決事件として迷宮入り)
■世界戦を控えたゴンドラニーの公開練習の様子を見に来たクレオ氏の貴重な動画がこちらです。(インタビューの様子もあり。)⬇︎
アウトロー的な人間が多い格闘技界では、絶対的なカリスマとして影響力を持った人物がその業界を引率していく必要があるとされた時代は、もはや時代遅れとなってしまった感があります。
格闘技界も大きな変革期に来ているのではないでしょうか…⁉︎
タイは1999年にムエ法(B.E.2542)が正式に制定され、タイ国観光・スポーツ省スポーツ局の元、厳格に各ジム、選手、プロモーター、スタジアムなどが登録管理されています。公共機関がきちんと管理する競技として成立しています。(一部のイベントマッチは除く)
どんな業界でも公平公正な組織運営で、一個人の影響力に頼るのではなく、次世代に続く体制作りを構築していくことが、確固たる競技運営・管理が可能となるであろうと感じます。
日本はスポーツ局はあるものの、オリンピック競技であるアマチュアスポーツに特化している状況かと思いますので、プロスポーツは独自に興行を開催しているだけなので、中枢となる公共機関の統括組織が編制されていけば良いのでは⁉︎と思うのですが。
民間企業や個人が、各独自に主催している”格闘技イベント”では今までの例を見てもわかるように、一時的に人気を博すことはあっても、正直、限界があるのは明らかだと思います。
競技として確立されず、視聴率を稼ぐために”面白ければ何でもいい”という格闘技イベントは淘汰されていってしまうものです。
Text by Hideki Suzuki
© INGRAM MUAY THAI GYM
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